抗菌薬の添付文書はどこが間違っているのか 岩田健太郎,日病薬誌 第45巻3号(339-344)2009年

タイトル通りの日本病院薬剤師会雑誌に掲載されていた文章。
全ての医療従事者(特に医師と薬剤師)に知っておいて欲しい内容。

埋もれさせておくのは非常に惜しいのと、
ものすごい力の入りようなので引用させていただきます。
OCRソフトの不調で5%くらい誤字脱字があるかもしれません。

ここが間違っている,添付文書
 日本の臨床感染症を巡る間題は多々あるが,
そのなかでも特に深刻なのが医薬品添付文書の不適切記載である。
抗菌薬のそれは,特に深刻である。どのようなところに問題があるのだろうか。

投与経路の問題
 ペニシリンGカリウム(ベンジルペニシリンカリウム注射用)は,
日本では筋肉注射しか添付文書上認められていない。 
しかし,感染症の教科書を開けば,ペニシリンGは点滴使用のほうが
むしろ使用価値も頻度も高いことがわかる。
元来,筋注ペニシリン製剤は,ベンザシン・ペニシリンのような
徐放効果のあるものが梅毒の治療などに用いられるためにあるのだ。
半減期が短い現行のペニシリンGを筋注で頻回投与する論理的整合性はない。

筆者は2004年に帰国して以来,ペニシリンGカリウムを点滴以外で使用したことがない。
筋注ペニシリン製剤を積極的に用いる臨床状況があるとすれば,
是非,教えてほしい。

 薬剤とは,使用に足る臨床的なシチュエーションがあって初めて存在する価値がある。
何のために薬剤が存在するのか,このような根源的な思考の仕方が重要になる。
テクニカル(技術的)な手続き論ばかり議論しているから,
添付文書の議論は虚しいものになるのだ。

 ペニシリンGは,感染性心内膜炎など重症感染症でしばしば用いられる。
また,2008年にCLSI(昔のNCCLS)が
肺炎球菌のペニシリン感受性のブレイクポイントを2μg/mLから8μg/mLに引き上げて,
肺炎球菌による肺炎はほぼ全例,ペニシリンGで治療が可能になったI)。

耐性菌対策上も,
ペニシリンのような狭域で強力な抗菌薬の使用を奨励するのは理に叶っている。

投与量の問題
 ゲンタシン(ゲンタマイシン)のようなアミノグリコシドの投与量が,
日本においては諸外国に比べてずっと少ないことはよく知られている。

 例えば,ゲンタマイシンの使用量は,『1~2.5mg/kgを8時問間隔で点滴。
または4~7mg/kgを24時間間隔で点滴』2)と米国の添付文書には書いている。
体重60kgの人物であれぱ,例えば5 mg/kg/日で用いれば1日使用量は300mgとなる。

ところが,日本の添付文占では『1日80~120mg(力価)を2~3回に分割して
筋肉内注射又は点滴静注する』とあり,『司じ体重であれば米国の半量から3分の1程度となる。

アミノグリコシドは濃度依存性の抗菌薬であり,
薬剤血中最高濃度とMICの比である,

Cmax/MICの値が重要になる。
Cmaxを高めるためには1回の投与量が重要となる。

従って,投与総量はその属性を活かすために重要な一要素である3`6)。
日本の添付文書上のアミノグリコシドの総投与量は少なすぎる。

これは,ゲンタマイシン以外のアミノグリコシドにおいても同様である。
トブラマイシンはゲンタマイシン同様の投与量を,
アミカシンであれば15mg/kg/日が諸外国の標堆使用量である。

 ピペラシリンは緑膿菌に効果のあるペニシリン製剤であるが,
通常使用量は1日4g,添付文書上の最大使用量は8gとなっている。

 しかし,2008年から発売されたゾシン(ピペラシリン・タソバクタム)では
最大投与量は1日18gで,ピペラシリン成分では16gとなっている。

ピペラシリン単剤の倍量使うことができるのである。

 緑膿菌に活性のある抗菌薬は,
緑膿菌感染あるいは緑膿菌感染が臨床上強く疑われる時に使用されるべきである。
ピペラシリンを肺炎球菌や大腸菌の感染症に用いるのは臨床的に理に叶っておらず,
「意味がない」。筆者にはどうにも合点のいかぬことであるが,
手術後の創部感染予防にピペラシリンを推奨する専門家がいると問いたことがある。

創部感染でカバーせねばならないのはグラム陽性菌であり,
わざわざ耐性菌が問題である緑膿菌をカバーすることは全く理に叶っていない。
抗菌薬は薬理学的属性だけで考えてはダメで,
いかに臨床現場のなかで理に叶った使用ができるかどうかが,
その「正しさ」を裏打ちするのである。

 話が脱線したが,緑膿菌感染症あるいは緑膿菌感染が強く疑われる場合,

それはしばしば院内感染であり,患者は基礎疾患をもったハイリスク患者であり,
感染症は重症感染症である。従って,緑膿菌感染を治療する時は
最大量の抗菌薬を用いて最人の効果を得るため,
医療者はベストを尽くさねばならない。

ピペラシリンの最大投与量は諸外国と同じく目16gであるべきなのである。

 さて,なぜピペラシリンとそのタソバクタムの合剤で最大投与量が大きく異なるのだろう。
タソバクタムにビペラシリンの副作川阻止効果でもあるというのだろうか。
 本来ならば,ソシンが発売される時にこのような論理的矛盾は排除されておくべきであった。

添付文書作成に関連した製薬メーカー,
医薬品医療機器総合機俳(以下,PMDA),厚生労働省(以ド,厚労省),
臨床試験に関与した専門家や学術団体は,ゾシン承認,発売にあたり
「では,ピペラシリンの添付文書も改訂しましょう」
と言うぺきであったのである。

抗菌薬の専門家であればピペラシリンについて知らないはずはなく,
そもそもゾシンを出しているメーカーこそが
ピペラシリンを出しているのである。
関係諸氏に猛省を求めるとともに,この間題については遠やかに対応するべきである
(対応策については後述)。

適応病名の問題
 『メトロニダソール(フラジール)は偽膜性腸炎の第一選択薬である』と
信用に足る感染症の教科書には書いてある。

また,メトロニダソールは嫌気性菌感染全般,
アメーバ赤痢,ジアルジア感染症(ランブル鞭毛虫感染),
細菌性腔症などたくさんの感染症に活川できる非常に便利な抗菌薬である。

日本にはこの注射薬も存在せず,臨床現場はそのために困難に陥ることも少なくない。

 しかも添付文書上,メトロニダソールの適応はトリコモナス腔症にしかなく,
昨今これにヘリコバクター・ピロリ菌の除菌が加わっただけである。

せっかくの薬もこれではその属性を十分には活かせない。

 その他,適応病名の問題には,
「ノカルジア感染症に対するST合剤の適応がない」といったやや専門性の高いものから,
「結核I尨を含む抗酸菌感染症に対するニューキノロン製剤の適応がない」といった
基本的な領域まで数多く見られる

亀田総合病院の山本舜吾氏を中心に調べたところ,
このような臨床感染症学的に妥当と考えられている適応病名の不適りj記抜は86にも及んだという
(未発表データ)。

なぜ,禁忌?
 このように問題点の多い日本の抗菌薬・添付文書であるが,
筆者が特に問題と弩えるのが,不適切な禁忌疾患である。

 経ロメトロニダソールの添付文言には,『中枢神経に器質的疾患を有する者が禁忌疾患と書かれている。
 確かに,米国の添付文書には「中枢神経症状が出たら薬を中止するよう」
「中枢神経疾患があれば減量をJと記載されているが,
「中枢神経疾患があれば禁忌」とは言いていない(両行の意味は全く異なる)9)。
なぜ,「禁忌」にしなければならないのか。

 また,ニューモシスチス肺炎などに用いるST合剤注射剤(バクトラミン注射液)の添付文書には,
以下のように書いてある。
 ・血液障害又はその既往,アレルギーの家族歴(含本人),気管支喘心の家族歴(含本人),
蕁麻疹の家族歴(含本人),発疹の家族歴(含本人),他の薬剤に対し過敏症の既往

 確かに,ST合剤は皮疹や血球減少という副作川が起きることもあり注意が必要である。
しかし,それを根拠に「蕁麻疹の既往」が禁忌になるのであろうか。
1その家族歴」がr禁忌となる論理的整合性がどのくらいあるというのであろうか。

「注意」や「警告」で十分なはずである。

特にバクトラミンは代替薬の少ない貴重な薬である。

先日,ニューモシスチス肺炎の治療にバクトラミン
を推奨したら,「この患者,蕁麻疹の既往があるので禁忌だから使いたくない」と
ある医師に反駁されたことがある。

不適切な添付文書の記載は,現場における妥当な臨床判断を誤らせる危険性をはらんでいる。

 日本の薬の添付文書の最大の問題点は「禁忌」の不適切記截である。

添付文書は薬物の属性を評価したものであるべきで,
その「価慎観」を勝手に強制すべきではない。提示されるぺきはデータである。

どのような効能があり,どのようなリスクがあるのかをしっかりと明示すればよいのだ。

それをどのように料理するかは,現場の医療者と患者の価値観に委ねればいいのである。
なぜならば,添付文酋の作成者は臨床判断のアマチュアであり,
現場の医療者はそのプロフェツショナルだからである。

開示すぺきはデータである。プレマチュアな(未熟な)
臨床判断を押しつけてはいけない。

岩田健太郎,日病薬誌 第45巻3号(339-344)2009年より引用 一部改変



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